少しずつ現実味を帯びるファンタジー|Ep.3

アプリをやめた、という彼からのメッセージを見たとき、私はびっくりした。
だって、呼び方のやり取りと、写真を交換しただけで、もう退会してしまったのだから。

まだ私は、乙女ゲームのつもりでいた。
「ファンタジーの中のキャラクター」という感覚が抜けていなかった。

だから、少し申し訳ない気持ちになった。
本当にアプリをやめちゃってよかったの?って、一応聞いてみた。

すると彼は、こんな話をしてくれた。
彼のアプリのアイコンは、よく映画とかで見るような、自分に自信ありげな腹筋メインの写真だった(笑)。

そのせいか、おかげか、登録してたった3日以内で、何人もの女性からアプローチされていたらしい。
しかも、何人かの女性からはホテルにまで誘われたという。
私は思わず笑ってしまった。

……いや、そりゃそうだろう。

外国人の名前で、腹筋晒してたら、そりゃ女性は寄ってくるよなって。
でも彼は、そういう女性を求めていたわけではなかったらしい。

「誠実な女性を探していた」

そう言う彼に対して、私はまだ「ふーん、そうなんだー」という感覚でいた。
まだその言葉をまっすぐ受け取るほど、現実には戻っていなかった。

だって、まだ彼は私の中でファンタジーのままだったから。

その後も、たわいのないやり取りが続いた。
でも、こういう形で出会ったのだから、一応確認しておこうと思って、好みの女性のタイプを聞いてみた。

彼は少し考えて、こう言った。
「学習意欲があって、向上心があって、誠実な女性が好き」

私は正直に答えた。
「私、頭はよくないよ」

すると彼は、優しく笑うようにこう返してくれた。
「正直に言ってくれてありがとう」
その一言が、なんだか素敵だな、と思った。

私はもともと会うつもりでマッチングアプリを始めたわけではなかったし、彼に対しても「ファンタジー」という認識のまま接していた。
だから、たぶん私が送るメッセージは控えめで、誠実に見えていたのかもしれない。
うん、きっとそうだ。
それが、彼の求める女性像に近かったのかな、と思う。

甘くて、優しくて、心地よい彼の言葉。
読んでいて、嫌な感じは全然しなくて、むしろすごく好感が持てた。

「最高の乙女ゲーじゃん」
そう思った。

スマホの画面の向こうで、彼はまだファンタジーのキャラクター。
でも、もしこれが現実だったら——そんな期待が、少しずつ芽生えていた。

浮かれていた。
わかっていたはずなのに。
ファンタジーだって、ちゃんとわかっていたはずなのに。

――いつからだろう。
私の脳みそは、どこでバグってしまったのか。

詐欺にあった。ロマンス詐欺だった。

思い返すとバカみたいに信じて、あっという間に落ちていた。
この日に戻ることは、もうできない。

ほんの少し興味をくすぐられただけで、簡単に絆されてしまった私は、
きっと「いいカモ」だったに違いない。

このブログを始めたきっかけは、
夢が一つ叶った悦びに浮かれて、ただ誰かに自慢したかった。
それだけだった。
でもその浮かれた気持ちが、私の目を急速に曇らせていく。

怒りよりも深い、
虚しさと悲しみ。

時間も、感情も、お金も奪われて、
最後に残ったのは、凪のような静かな空虚だけだった。

だから、私はここに書く。
ぜんぶ晒して、きちんと怒って、反省して、
もう二度と同じことを繰り返さないために。
誰かが私のように奪われないために。

――ここから先は、浮かれた恋愛ブログから、
詐欺注意喚起ブログに転生します。

はじまりの物語を読んでくれたあなたへ。
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