ファンタジーだと思うことにした|Ep.2

マッチングアプリにおいて、外国人って——
私の勝手なイメージだけど、全部サクラか業者だと思っていた。
本物だなんて、最初からこれっぽっちも信じていなかった。

だから、彼から最初にメッセージが届いたときも、驚きはしなかった。
たしか、こんな感じだったと思う。

「マッチングありがとう。僕はアドリアンと言います。よろしくお願いします。お名前は何と呼んだらいいですか?」

そのメッセージを見て、私も当たり障りなく「よろしくね」と返した。
マッチングアプリではニックネームで登録していたので、呼び方を聞かれて、私はこう答えた。

「何て呼んでもいいですよ」

だって、その時点ではまだ「外国人を装った誰か」だと思っていたし、サクラでも業者でもいいや、という気持ちだった。
なんとなく楽しいやり取りが続けば、それで十分だったから。

そんな気持ちでゆるくやり取りをしていたら、ある時、彼がこんなことを言ってきた。

私が適当に付けたニックネームが「ママ」に近い響きだったらしく、彼はこう聞いてきたのだ。
「母という意味ですか?母というのは、とても偉大で、素敵な存在です」

……え?
そのとき、ハッとした。

この言い回し、発想——本当に日本人じゃないかもしれない。
カタコトな日本語と、ちょっとズレた言葉選び。
画面を見ながら、私は思った。

「……この人、もしかして、本当に外国人なのかも」

でもだからといって、本物かどうかはまだわからない。
まだ半分は疑いの気持ちも残っていた。

だから私は心の中で決めた。
「彼はファンタジーだ。物語の中の人だ」
今、私がしているのは、乙女ゲーム。

本物でも嘘でも、どっちでもいい。
このやり取りを楽しめれば、それでいい。

その日のうちに、何度かメッセージを交わした。
すると彼が写真を送ってきた。

画面に表示された写真を見て、思わず笑ってしまった。
「いや、ホントにファンタジーじゃん……」

そこに写っていたのは、予想以上のイケメンだった。
乙女ゲームのキャラクターが“解放”されたような感覚。

その写真が本物かどうかなんて、もう正直どうでもよくなっていた(笑)。
「いいじゃない、推しキャラ見つけた!」
そんな気分だった。

彼は、私の顔も見たいと言った。
少し悩んだけど、数年前に友人と撮った、飾らない笑顔の写真を送った。

いわゆる「盛った写真」ではなく、ちょっと変顔気味のもの。

その写真を送ったら、たしか彼は大絶賛していた。
でも正直、あのあたりの記憶は少し曖昧だ。
私はまだ、乙女ゲームを楽しんでいるつもりだったから。

そしてその夜、外部の連絡先を交換した。
すると、すぐに彼からメッセージが届いた。

「退会したよ」
そう言って、退会画面のスクリーンショットまで送られてきた。

……びっくりした。
なぜなら、彼のプロフィールには「new」という表示がついていて、マッチングした時点で登録してから3日以内のはずだったのだ。

つまり、まだ始めたばかりなのに、呼び方と写真を送り合っただけで、もう退会してしまっていいのか、と(笑)。
まあ、アプリなんてまたすぐ登録できるだろうけど……
その行動の早さと、謎の潔さに、私は思わずスマホの画面を見つめてしまった。

私はまだ、乙女ゲームのつもりだったのに。

はじまりの物語を読んでくれたあなたへ。
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