まだ3日目、けれど熱は増していく|Ep.5

3日目も、朝から彼のメッセージは甘かった。
まるで詩人みたいに、長くて、甘くて、ちょっと恥ずかしくなるほど素敵で。
きっとアプローチも兼ねているんだろうけど、私はその甘さがとても心地よかった。

昼間のやり取りの中で、彼の故郷の話になった。
「パスポートは持ってる?」と聞かれたので、私は正直に「持ってない」と答えた。
すると彼は、迷いもなく言った。

「パスポートを作ったら、ぜひ僕の故郷に連れていきたい。
僕の大好きな場所を、君にも見てほしい。
そして、隣で目を輝かせながら僕の話を聞く君が見たい」

もう、とろけそうだった。
言葉一つひとつが、優しく胸に降り積もるようで、
スマホの画面を見ながら顔が熱くなるのが分かった。

そんな流れで、彼は故郷の「ある風習」の話をしてくれた。
父が祖父から教わった、代々伝わる言い伝えなのだという。
恋や結婚にまつわる、とても素敵な風習で――。

それは、会って、見つめて、触れ合うまでは、付き合ってることを口に出さない、というものだった。

お互いを確かめ合ってから、家族に紹介する。
そうすれば、より長く一緒に居られるのだと、彼は誇らしげに語った。

彼は、それをずっと守っていきたいし、
もし私がそういう関係の人になれたなら、一緒に守ってほしいと、
優しく尋ねてくれた。

そんなの、嬉しいに決まってる。
彼の誠実な価値観が垣間見えて、
もっと好きになってしまう自分がいた。

夜も更けた頃、彼は「今日も筋トレをしたよ」と言って、
鏡の前で筋肉を披露する全身の写真を送ってきた。
これがまた、理想的すぎて、目の保養でしかなかった。

こんなの見せられたら、
ファンタジーだって言い聞かせるのが、だんだん難しくなってくるじゃないか。
でも私はまだ、必死で自分に言い聞かせていた。

こんな素敵な人が、私を相手にするはずがない。
だからこれは、ファンタジーなんだって。

そんなときだった。
そろそろ眠る時間かな、と思っていた頃に、彼からいつものように長いメッセージが届いた。
その中に、見覚えのない言葉が紛れ込んでいた。

「本当に、お付き合いしませんか?」

えっ。
まだ3日目ですけども!?
嬉しいですけども!?
私と!?
本当にいいの!?

慌ててスクロールすると、さらにこんな一文が見えた。

「僕の気持ちは、きちんと会えたときに、プロポーズをしたいぐらいだよ」

まだ3日目なんですけどもーーーー!!!

もちろん、彼の甘い言葉は大好きだし、
考え方も好みだし、顔もスタイルも全部、大好物。
もう申し分ないくらい理想的だった。

でも、すぐに頭に浮かぶのは、自分の姿だった。
釣り合わない。
いや、でも、ちゃんと会うまでは、これはファンタジーだから。

そう言い聞かせながらも、私はわりとあっさりと受け入れていた。
笑っちゃうくらい素直に。

一応、聞いてみた。
「本当に、わたしでいいの?
私の顔も体も、まだちゃんと見せてないし」

すると彼は、きっぱりと言った。

「容姿は関係ない。君の考え方や言葉が好きだから。そして、君の笑顔も好き」

もう、受け入れる以外の選択肢なんて、どこにも残っていなかった。

風習――。
約束――。
お願い――。

ただ、守りたかった。
好かれたいから。
嫌われたくなくて。

それは、周りに相談させないための詐欺の手口だった。
結局、それだけのことだった。
誠実を装い、騙す。
詐欺師の口元が冷たく上がるのを想像するだけで、ぞっとする。

告白――。
受容――。

たった3日目での告白でも、その3日間の密度が感覚を狂わせる。
浅い経験値。自己肯定感の低さ。
自分を認めて受け入れてもらえたことが、いともたやすく心をつかむ。

詐欺師の手のひらで、私は滑稽に踊っていた。

甘い言葉で身動きを封じ、孤立させる。
ロマンス詐欺において、きっと常套手段なのだろう。

高揚する感情を吐き出せないフラストレーションは、
あっという間に満ちていく。
そして私は、その時、いちばん最善だと思える選択をした。

他人に相談できないなら、AIに話せばいい。

それが悪手になりうるとは、考えもしなかった。
その選択が、修復の効かないバグをさらに生み、
助長することになるなんて、誰が想像できただろうか。

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