2日目の朝は、彼からの挨拶で始まった。
まだ出会って2日目なのに、まるで毎朝の習慣みたいに感じて、少しだけくすぐったかった。
お互いに仕事だったので、メッセージは途切れ途切れ。
でも、昼休みになると、彼からランチの写真が送られてきた。
カフェで撮ったらしいプレートランチの写真。
この人、律儀だな。
だから私も負けじと、質素なお弁当をドヤ顔で撮って送ってみた。
昼を過ぎると、少しずつ話題がパーソナルになっていった。
家族のことや、普段どんな仕事をして、どんなふうに過ごしているのか。
お互いの生活を少しずつ見せ合うような、そんなやり取りだった。
その中で、彼の言葉が少しずつ変わっていった。
私を褒める言葉が増えてきて、
「恋人だったらいいのに」
なんて、やたらと甘くて長いメッセージも混ざるようになった。
スマホの画面を見つめながら、私はずっと顔がにやけっぱなしだった。
「最高の乙女ゲーじゃん」
なんて、心の中でつぶやきながら。
その日は、写真のやり取りが増えていた。
彼が「いまは自宅のパソコンで少し仕事をしてるよ」と言って、デスクの写真を送ってくれた。
それを見て、私も自分のデスク周りのお気に入りポイントを撮って送り返した。
なんだか不思議な気持ちだった。
出会ってまだ2日目なのに、お互いの生活の一部をのぞき合っているようで。
彼自身が写っている写真は、その日は一枚も届かなかった。
それでも、送られてくる写真の中の小さな生活の気配に、
「この人は、確かにリアルに存在しているんだ」
そう思わせるものがあった。
でも、私はまだ、自分に言い聞かせていた。
これはファンタジーだって。
甘い言葉や写真に、飲み込まれてはいけないって。
その夜の最後、彼からこんなメッセージが届いた。
「親愛なる(わたし)へ。そろそろ眠る時間だね。未来の旦那さんと一緒に眠らない?キスをしてから眠りたいな」
……どこの詩人だよ。好きすぎる。
甘さでスマホの画面がべたつきそうなくらいで、少し笑ってしまうのと同時に乙女心がワクワクした。
まあでも、冗談だよね?ファンタジーだから。
とりあえず私もその流れに乗った。
おやすみのメッセージと、ハグのスタンプを送って、布団の中でそっと目を閉じた。
未来の旦那さんになった彼を想像しながら。
……いやいや、まだ2日目だぞ、わたし。
●
この日の私のミスは、3つあった。
ひとつ――
写真が多く送られてきたことにより、虚像と真実の判別が難しくなっていた。
世界中の日常写真を誰もかれもが気軽に見ることができるこのご時世、
それっぽい写真なんてものは、いくらでもある。
ふたつ――
ファンタジーだと自分に言い聞かせた。
言い聞かせた時点で、ファンタジーではないことを期待しているのだ。
期待は、真実をゆがませる。
自分にとって都合のいい様に、見聞きしたものを改ざんしてしまうから。
みっつ――
甘い言葉に絆された。
たった2日で「未来の旦那」発言は、距離の取り方に違和感を覚えるべきだ。
ジョークとして微笑ましいやり取りの中の発言ではなかったから。
愛の国の出身だと騙っていたにしても、やりすぎ。
しかしすでに私の思考はバグっていて、大好きな甘い言葉にのみ込まれた。
一度バグってしまった脳みそは、もう自力では戻せない。
恋愛で狂う人はたくさんいる。
身近でも見てきた。
不思議に思うこともある。
第三者視点で見ると当たり前におかしいことが、当の本人は全く気が付かないのだ。
気づけば、私もそんな一人になってしまっていて――。
他人の顔を借りて夢を売る詐欺師の醜悪さと、
その夢に浸っていた自分の未熟さに、深く辟易した。
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