マッチングアプリにおいて、外国人って——
私の勝手なイメージだけど、全部、サクラか業者だと思っていた。
本物だなんて、最初からこれっぽっちも信じていなかった。
だから、彼から最初にメッセージが届いたときも、驚きはしなかった。
たしか、こんな感じだったと思う。
「マッチングありがとう。僕はアドリアンと言います。よろしくお願いします。お名前は何と呼んだらいいですか?」
そのメッセージを見て、私も当たり障りなく「よろしくね」と返した。
マッチングアプリではニックネームで登録していたので、呼び方を聞かれて、私はこう答えた。
「何て呼んでもいいですよ」
だって、その時点ではまだ「外国人を装った誰か」だと思っていたし、サクラでも業者でもいいや、という気持ちだった。
なんとなく楽しいやり取りが続けば、それで十分だったから。
この人、本当に外国人なのかも
そんな気持ちでゆるくやり取りをしていたら、ある時、彼がこんなことを言ってきた。
私が適当に付けたニックネームが「ママ」に近い響きだったらしく、彼はこう聞いてきたのだ。
「母という意味ですか?母というのは、とても偉大で、素敵な存在です」
……え?
そのとき、ハッとした。
この言い回し、発想——本当に日本人じゃないかもしれない。
カタコトな日本語と、ちょっとズレた言葉選び。
画面を見ながら、私は思った。
「……この人、もしかして、本当に外国人なのかも」
彼はファンタジーだと思うことにした
でもだからといって、本物かどうかはまだわからない。
まだ半分は疑いの気持ちも残っていた。
だから私は心の中で決めた。
「彼はファンタジーだ。物語の中の人だ」
今、私がしているのは、乙女ゲーム。
本物でも嘘でも、どっちでもいい。
このやり取りを楽しめれば、それでいい。
推しキャラ、見つけた
その日のうちに、何度かメッセージを交わした。
すると彼が写真を送ってきた。
画面に表示された写真を見て、思わず笑ってしまった。
「いや、ホントにファンタジーじゃん……」
そこに写っていたのは、予想以上のイケメンだった。
乙女ゲームのキャラクターが“解放”されたような感覚。
その写真が本物かどうかなんて、もう正直どうでもよくなっていた(笑)。
「いいじゃない、推しキャラ見つけた!」
そんな気分だった。
退会という潔さ
彼は、私の顔も見たいと言った。
少し悩んだけど、数年前に友人と撮った、飾らない笑顔の写真を送った。
いわゆる「盛った写真」ではなく、ちょっと変顔気味のもの。
その写真を送ったら、たしか彼は大絶賛していた。
でも正直、あのあたりの記憶は少し曖昧だ。
私はまだ、乙女ゲームを楽しんでいるつもりだったから。
そしてその夜、外部の連絡先を交換した。
すると、すぐに彼からメッセージが届いた。
「退会したよ」
そう言って、退会画面のスクリーンショットまで送られてきた。
……びっくりした。
なぜなら、彼のプロフィールには「new」という表示がついていて、マッチングした時点で登録してから3日以内のはずだったのだ。
つまり、まだ始めたばかりなのに、呼び方と写真を送り合っただけで、もう退会してしまっていいのか、と(笑)。
まあ、アプリなんてまたすぐ登録できるだろうけど……
その行動の早さと、謎の潔さに、私は思わずスマホの画面を見つめてしまった。
私はまだ、乙女ゲームのつもりだったのに。
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