わたしは、37歳。普通に生きてきた。ただ、そこに恋愛はなかった。
家と会社の往復、たまに友人と食事。それで満足していた。
いや、満足しているつもりだった。
そもそも、わたしは恋愛をしたことがあったのだろうか。
10代、恋はした。みんなと同じように、みんなと同じような人に恋した。
好意を寄せてくれる人に気持ちが引き寄せられたこともある。
10代の女の子なんて、単純だから。
20代、それなりに恋はした。デートをして、体を重ねて、お互いを求め合った。
でも、大人になった心は、少女のころよりずっと複雑で、気持ちだけでは動けなくなっていた。
30代、恋はしなくなった。動かなければ、新しい出会いなんてない。
それなのに、現状に満足しているふりをしていた。
わたしのいままでのこれらは、本当に恋だったのだろうか。
思い返しても、泣いたことはない。恋焦がれたこともない。
不満に思うことはあっても、不安になったことはない。
……きっと、わたしは本当の恋を知らずに生きてきたんだろう。
そして、37歳。
わたしは、恋をした。
もっと簡単にわたしを知りたい方は、ごあいさつページをご覧ください。
特にやることもなく過ぎていく日々に、何も疑問を持たずにいた頃。
たまたま久しぶりに読んだBL漫画に、胸が熱くなった。
ワクワクして、ドキドキして、切なくて、涙を流すのが気持ちよかった。
「愛されたい。人を愛したい」
そんな気持ちが、無性に湧き上がるのを感じた。
男性と話す機会も減っていたから、まずはそこから変えようと思った。
リハビリのつもりで、マッチングアプリに登録した。
誰かと会いたいというよりは、やり取りをしてみたい。
相手は誰でもよかった。サクラでもいい――とさえ思っていた。
何人かとメッセージのやり取りをして、少しだけ電話もしてみた。
でも、特に気が合う人はいなかった。
もうやめようかな……そう思ったとき、新たな『いいね』が届いた。
「この人で最後でいいや」
そんな気持ちだった。だって、画面に表示されたのは、外国人の名前と顔だったから。
サクラか、業者か――それでもいい。
なぜなら、わたしは昔から、外国人のルックスが大好物だったのだ。
本物じゃなくても、ファンタジーでもいい。
少しの間……ほんの少しでも楽しめればいい。そんな気持ちで、『いいね』を返した。
まさか、自分が本当に恋をすることになるなんて、想像もしていなかった。
そして、無気力に過ごしてきた日々を、こんなにも後悔することになるなんて。
これは、37歳、遅咲きのわたしが恋をして、もがきながらも自分を磨いていく記録。
そして、彼――Adrien(アドリアン)との物語のはじまり。
この恋のはじまりを読んでくれたあなたへ。
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